だいぶ前に買った本で
いまさらという気もするのだが、
やはりペストセラーになるだけのことはある。
この本の優れているのは
「群衆の叡智 (the wisdom of crowds)」が
いかに機能するかだけでなく、
それがいかに機能しないかについても
十分に考察されているところだ。
群衆が本当に賢いのなら、
なぜ渋滞が発生するのか。
なぜ市場はバブルを起こすのか。
そういった「群衆の叡智」が働かない状況についても
極めて明敏なケーススタディがなされている。
ただ、どうしても気になる点が。
案外正しいのは
「みんなの意見」なのだろうか。
本書の原題は
THE WISDOM OF CROWDS
となっている。
これを「みんなの意見」としていいのだろうか。
“I felt something in the crowds.”
を
「みんなの中にいて、感じたことがある。」
とすると
明らかな誤訳だ。
前者は
「互いに関係を持たない雑多な人ごみの中で
やはり彼らと関係を持たない自分が何かを感じた」
と言っているのであり、
後者の訳では
「それぞれが影響し合いながら生きている集団の中にいて、
その一員である自分が何かを感じた」
というイメージになってしまう。
日本語の「みんな」は
群衆の叡智が働くための条件
・多様性
・独立性
・分散性
とは正反対の属性を持つ集団を表すことが多い。
とすると
『「みんなの意見」は案外正しい』
ではマズいのではないか。
とはいえ
そこのところを置き換えて読めばいいだけで、
極めて興味深い一冊であることには変わりない。
しかも
自分も最初はタイトルが気になって買ったのだから
偉そうなことは言えないのもわかっている。
2006/09/14 12:45
今回も、感心しながら読ませていただきました。
これは出版翻訳史上でもかなり大型の「誤訳」ですね。
群衆の叡知が誤解されないためにも、誤訳であることを “みんな” に伝えなきゃ :P
2006/09/16 13:39
> baldhatterさん
そういうわけで、
baldhatterさんのブログでも
書いてくださったわけですね。
ありがとうございます。