きっかけはこの発言だった。
「もげる」ってのは、「もぐ+can」ではないよね?もが・もぎ・もぐ・もぐ・…もげ???
これをたまたま目にして
自分なりに説明しようとしてみたんだけど、
どうもしっくりこない。
というわけで
以前このブログにも登場していただいた
国語学者のK先生に電話してみた。
するとその場で
「こうじゃないかと思う」という説明をしてくださったうえ
あとから補足のメールまで。
ありがとうございます。
それを聞いて
「なるほど!」と膝を打たずにはいられなかった。
いや実際には打ってないけど。
転載の許可もいただいたので書いておきます。
ただし「確かなことかどうかはわからん」と明記しておくように
とのことでした。
「もぐ」の意味
1 古くは「もぐ」(終止形)という語形であり、四段活用ならば他動詞、下二段活 用ならば自動詞であった。
つまり、
- 四段:もが(ず)、もぎ(たり)、もぐ、もぐ(とき)、もげ(ども)、もげ → 他動詞
- 下二段:もげ(ず)、もげ(たり)、もぐ、もぐる、もぐれ(ども)、もげよ → 自動詞
というふうに意味が違うと。
このような例(終止形は同一だが、活用の種類によって自他の区別をする)は、他 に「並ぶ」(四段は自動詞、下二段は他動詞)、「砕く」(四段は他動詞、下二段は 自動詞)などがある。
こういうことですか。
- 並ぶ
- 四段:並ば(ず)、並び(たり)、並ぶ、並ぶ(とき)、並べ(ども)、並べ → 自動詞
- 下二段:並べ(ず)、並べ(たり)、並ぶ、並ぶる(とき)、並ぶれ(ども)、並べよ → 他動詞
- 砕く
- 四段:砕か(ず)、砕き(たり)、砕く、砕く(とき)、砕け(ども)、砕け → 他動詞
- 下二段:砕け(ず)、砕け(たり)、砕く、砕くる(とき)、砕くれ(ども)、砕けよ → 自動詞
何かわかる気がします。
終止形の消滅
2 下二段の「もぐ」について、次のような変化が起こる。
(1) 終止形の消滅(連体形に吸収)
鎌倉から室町にかけて、終止形が消滅する。
連体形で文を言い切る形が一般化する。
他に、「あり」→「ある」など(これによりラ変は消滅)。
終止形が連体形に吸収されていったというのも、
現代語を見たらわかる気がします。
現代語だと終止形と連体形が(ほとんど?全部?)同じ形ですよね。
二段活用の変化
(2) 二段活用の一段化
上二段、下二段活用が一段活用になる。
鎌倉頃から江戸にかけて起こる。
現代語には上一段と下一段の動詞はたくさんあるけど
上二段も下二段もないですよね。
この頃の変化によってそうなったということですか。
そして「もげる」へ
これによって、例えば、
「受く」…受け(ず)、受け(たり)、受く、受くる(とき)、受くれ(ども)、
受けよ
という下二段活用が、
受け(ず)、受け(たり)、受ける、受ける(とき)、受けれ(ども)、受けよ
という下一段活用になる。
何か見えてきた気がします。
さきほどの
- 連用形「受くる」(下二段)が「受ける」(下一段)になる
- 終止形「受く」が連体形に吸収される
が合わさって
終止形が「受ける」になったってことですね。
従って、「もぐ」(自動詞・下二段活用)の場合、
もげ(ず)、もげ(たり)、もぐ、もぐる(とき)、もぐれ(ども)、もげよ
が、
もげ(ず)、もげ(たり)、もげる、もげる(とき)、もげれ(ども)、もげよ
と変化した。
解決!
いや「確かなことかどうかはわからん」とのことですが、
実にすっきりしました。
身も蓋もないまとめかたをすれば、
四段活用の「もぐ」(他動詞)は五段活用の「もぐ」になり
下二段活用の「もぐ」(自動詞)は変化して「もげる」になった
ということですね。
本当に勉強になりました。
ありがとうございました。
さらに参考文献の紹介まで。
以上、松村明編『日本文法大辞典』(明治書院、1971.10初版)などを参考に、まとめてみた。
なお、これに関して、
山内洋一郎『活用と活用形の通時的研究』(清文堂出版、2003.7)
という専門書や、
坪井美樹「終止形連体形統合と二段活用の一段化」(『文藝言語研究(言語篇)』
19、筑波大学文藝・言語学系、1991.3)
という論文がある。
坪井論文はネット上で読める。
だそうです。
このへんですね。
関心のある方はぜひ。
でまた何かおもしろいことがわかったら教えてください。
2008/12/10 10:42
もぐ、もげる、モゲラ
活用ではありませんが、こう並べたくなりました。
2008/12/10 13:12
「はて?」の張本人です。なるほどスッキリしました。
まったくの余談ですが(ず)(たり)…という表現を、私は(ない)(ます)(。)(とき)(ば)と覚えていたので新鮮でした。そして「もぐ」「もぐ」…という活用って、クチに出して言うとちょっと可愛いですよね!w
2008/12/10 23:05
しかし自動詞と他動詞が似たような使い方で定着しちゃった言葉もあって、
届く・届けるとか滅ぶ・滅びるとか変な活用が残存しています。
いずれどっちかが無くなっていくのでしょう。
2008/12/11 11:00
過去形にすると「もいだ」「もげた」は確かに意味違いますね。しかし「もげる」「もげた」ってなんで聞くだけで可笑しく感じるのでしょう。オノマトペ的語感の不思議‥‥。