お世話になっている治療院で
最近ある女性をお見かけする。
残念ながら言葉を交わしたことはない。
その女性はいつも着物姿で、
お見かけしたところから勝手に判断させていただくと
ある程度お年を召していらっしゃるように思われる。
「老婦人」という表現がしっくりくる感じと言えば少しは伝わるだろうか。
この言い方が失礼にあたりませんように。
お召し物も綺麗だし目鼻立ちも美しい方なんだけど
たおやかな身のこなしといい穏やかな表情といい柔らかな言葉遣いといい
身につけられた美しさが素敵だなと思う。
その方の様子をうかがっていて
はっとしたことがあるので。
受付で支払いをすませてお帰りになる直前のこと。
そこでは建物の入り口の所に棚があって
基本的にはそこに履き物を置くことになってるんだけど、
玄関に脱ぎっぱなしにする方も多い。
その女性がご自分の草履を棚から取り出して履こうとしても
そのときは特にたくさんの靴が並んでいたため
足下に草履を置くことができない。
仕方なくしゃがみ込んで
並んでいる靴に手をかけられた。
当然、草履を履くペースをつくるため。
だけかと思ったら、
その方はそこに並んでいる全員分の靴の向きを揃えてから
最後に自分のためのスペースをつくって
そこに草履を置き、ゆったりと履いて出て行かれた。
その場所は受付の目の前なので
係の方が気づいたら何か言うかするかしそうなものなんだけど
あまりに自然な所作のため
誰一人そのことに気づいていない様子。
人に気づかせることのないようなさりげなさで
自分とは直接関係のない人のための心遣いを
それが当たり前のことであるかのようになさるその姿を拝見して
本当に美しいと思った。
今の自分にそういうことができるか、
もしできたとして
たまたまそれに気づいた人に
嫌味を一切感じさせないでいられるかと考えると
これから時間をかけて身につけるべき大切なものを
ひとつ教わったような気がする。