以前友人たちと長崎を旅行したときのこと。
メンバーの一人が「たびらに行きたい」と言い出した。
田平というのは長崎県平戸市田平町のこと。
そこに「たびら昆虫自然園」という施設があるので
一度行ってみたいという。
誰も昆虫にさほど関心があるわけではないので
「うん、まぁそう言うならちょっと行ってみようか…」
という程度に同意した。
あんなに強烈な体験が待ち受けていようとは思いもせず。
昆虫自然園に到着
要するにどういう施設なのかも知らないまま車を停め、
入場料を払って園内へ。
園内といっても木や草が生えているだけだ。
何だこりゃ。
突然出てきたおっちゃん(後に園長と判明)に
「はい、今からですからついてきて」と言われ、
わけもわからぬまま後を追う。
おっちゃんは自己紹介も何もなく
「はい、ここに座って」と言って
いきなり土の入った水槽を見せる。
我々4人と、あとは数組の親子連れが
土の水槽を持ったおっちゃんを取り囲むという変な図。
よく見ると土に混じって黒い円筒状のものがあり、
「これ、何だかわかる?」と問いかけられた。
「これね、カブトムシのうんこ。」
何だここは。
いきなりわけもわからずカブトムシのうんこを見せられた。
一同「失敗か…?」と思ったのだが、
実はそれが夢の冒険ツアーの始まりだった。
大冒険のはじまり
カブトムシのうんこは我々の生活を支えてくれていた。
「日本の土はね、もともと赤土なんですよ。
赤土じゃ野菜は育たない。
それをカブトムシの幼虫やミミズが食べて
お腹の中で養分と混ぜて黒土にしてくれるの。」
といった話から大冒険はスタート。
子ども達と一緒に広い園内を回り、
様々な昆虫を見ながら園長の話を聞いた。
そのお話の深いこと深いこと。
触ってみるとわかるが、
カブトムシの幼虫は冷たい。
「冷たいということは体温が低いということ。
人間の体温でもこの子らにとっては熱くて仕方がない。
ずっと持ってたら『やめてくれー』って身体をよじらせたり、
噛んだりもしますよ。」
そして、持つときも
つまむのではなくそっと手に載せてあげること。
ハチを見たらみんな騒ぐが、
ハチだって刺したくて刺すわけじゃない。
特に理由もなく襲ってくるわけじゃない。
「大きさを考えてごらん。
ハチが人間を刺すのは、
私たちが竹槍でティラノサウルスに闘いを挑むようなものですよ。
ティラノサウルスとケンカしたくないでしょ。」
スズムシは、昼と夜で鳴き方が違う。
夜はあんなに大きな音で大合唱するが、
昼間耳を澄ませてみると優しい音色で鳴いている。
「昼間にスズムシの声聞いたことある?
夜は仲間を集めるために大声で呼ぶけど、
昼は優しい声でプロポーズしてるんですよ。」
身体の大きいクモはだいたいメスで、
よく見るとちょっと離れたところに小さなオスがいる。
「オスはあまりメスに近づきません。
近づいたらメスに食べられるの。
でも、食べられるとわかってて近づくの。
食べられながら、その間に精子のカプセルをメスに渡すの。
それで受け取ってくれたらまだいいけど、
受け取ってくれないこともあるから
そうなったら食べられて終わり。
クモを見るとね、オスっていったい何なのかと思ってしまう。」
目の前にいる生き物について、
これでもかと言うほどいろんな話が出てくる。
その一つひとつが実に奥深く感動的だった。
そして最も感銘を受けたのは
カマキリの卵を見つけたときのお話。
そのとき我々は
人生との向き合い方について
大切なことを教えられるのだった。
触ってごらん
木の幹に
テントのような形をした白い塊がくっついていた。
「これはね、カマキリの卵。
触ってごらん。
びっくりするぐらい固くてすべすべしてるから。」
触ってみて「ホントだ~」と言う子もいれば、
見ているだけでなかなか手が出せない子もいる。
そのとき園長はポツリとこう言った。
「触ってごらん。
頭で考えただけで判断するのは、一番バカなことだ。」
響いた。
大して期待もせずに入った施設で
人生の道標まで示されることになろうとは。
あの子ども達が
常にここでの思い出を心に抱いて育つわけではない。
しかしこれから成長していく上で
何らかの行動を起こす必要に迫られた時、
きっとあの言葉を思い出すことだろう。
何せ、カマキリの卵の感触が指先に残っているのだから。
施設について
これだけ貴重な体験ができて
大人410円、小中学生310円、幼児(4歳以上)150円。
日本一コストパフォーマンスの高い施設かもしれない。
実際に行ってみるということ
話を聞いただけでは関心が沸きにくいかもしれません。
我々も最初はそうでした。
でもこんなにも豊かな体験が待っていた。
チャンスがあったら、ぜひ実際に行ってみることをお勧めします。
頭で考えただけで判断するのは、一番バカなことだ。