おもしろかった。これまで目にしたどんなワイン入門の書にもなかったタイプ。
ワインなんて「うまけりゃええ」し
食事中にワインの講釈を垂れるのはみっともないと思ってるんだけど、
そのときに適したものを選んでよりおいしくいただくには、
あるいは高い金を出してハズレを引かないようにするには、
ある程度の前提が頭に入っていた方がいい。
そのために「最低限これだけ知っておけば」のラインを引いてくれる本だと思えばいいかな。
「とりあえず」の需要を外さない
書いているのは「ワインライター」の葉山 考太郎さん。
奥付によると
ワイン業界と利害関係がないため、思ったことを遠慮せずにそのままズバズバ書けるのが強み
とのことで、確かにワイン産業で仕事をしてる人は書きにくいかも、
と思えるようなことが書き連ねられてる。
よくあるワイン入門書にあたるものは
「気軽に」と書かれてはいてもやっぱりちゃんとしたのが多く
途中で「これ全部把握するのなんてムリ」と思ってやめちゃう人が多いかもしれない。
なぜ、こうなるのか?ワイン関係者は、みんな超真面目なので、系統立てて網羅的にワインを解説しなければと考えているためだ。
そういう真面目なワイン本は
例えば、アメリカの入門本を書く場合、50州全てをカバーして、歴史、気候、産業を詳細に紹介するようなもの。
それに対してこの『30分で一生使えるワイン術』の基本理念はこれ。
私がアメリカの本を書くなら、アメリカの顔、ニューヨークに的を絞る。ニューヨークが分かれば、あとの市町村は自分で楽しく迷いながら勉強すればいい。
これは、プログラミングの入門にも通ずるところがあるかもしれない。
とりあえず一歩目の踏み出し方さえわかれば
あとは自分で調べてみて書いてみて動かしてみて
うまくいったりいかなかったりしながら学ぶものだと思う。
ワインも同じで、全体を網羅して覚えるには、ワイン学校に行き、修行僧のように滝に打たれて1年みっちり学習する必要がある。これでは、明日のデートや来週のヨーロッパ旅行に間に合わない。
本文を読み進めれば
ふざけながらも最低限の基本をしっかりおさえてくれてることがわかるんだけど、ワインを勉強して彼女にイイ格好をしたい
という需要もはずしてない。
ゆるいけどしっかり
格式を重んじる必要がある立場の人では言いにくいようなことを
代わりに言ってくれてる感じがする。
ワインの良し悪しを決める香りをつかむには
この香りを専門用語で「アロマ」と呼び、ブドウ本来の香りがする。このときにブドウの品種がわかる(はずだけど、トップ・プロでもよく間違える)。
この香りを「ブーケ」と呼び、ワインの醸造や熟成の様子が分かる(はずだけど、なかなかそうはいかない)。
あ、やっぱりそうなんだ・・・。
ワインの香りの基本会話集
香りは感じるが、何と表現していいのか分からない場合(しょっちゅうある)、「物凄く果実味がありますね」と逃げればいい。
「逃げればいい」て。
ソムリエを味方につけて、ディナーを成功させる
ソムリエは、「おいおい、そんなワインが安く買えるんならオレが買い占めるよ」と思いながらも何種類か選んでくれるので、その中で一番安いのにすればよい。
もうそういうものだから心配せずに言ってみればいい、ということですね。
全編こんな調子で、ゆるさを保ちながら
それでも筆者が「最低限これだけあれば」と考える知識と楽しみ方を示してくれている。
要するに自分がおいしく楽しく飲めればいい、
でもちょっとだけ知ってる感じも出したい、
という人は、この一冊から始めるのがいいかもしれない。
ともかく、
人様の酒の飲み方にケチをつけるような人間にはならないよう気をつけたいものです。